ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
ラムリーズ!
帝国暦九十二年 真藍の月・竜神の日(現代暦:六月下旬)
ついに、「ラムリーズ」デビューの日がやってきた。
この日のために、この一か月弱で、一時間演奏するための曲数を増やし、みんなで仕上げてきたのだ。
それでも、ここまで来るのにいろいろあった。そもそもこの話がなければ、雑談部でだらだら話すか、ネットゲームで廃人化しかけるだけの日々で終わっていただろう。
話が決まってからも、リリスの経験不足や、過去のトラウマに由来する問題を解決するために、いろいろ動き回ったりもした。
そして今日、それらの成果を試される日が来たのである。
場所は、帝都でも有名なナイトクラブの一つ「帝都・シャングリラ・ナイト・フィーバー」だ。
演奏の時間が来るまで、メンバーは舞台裏の控え室で待機していた。
休日ではあるが、メンバー全員が学校の制服で集まっている。ラムリーザはジャンと、事前に当日の衣装について話し合っていたのだが、その際にグループとしての統一感が出るということで、制服で出ることに決まったのだ。特に女子制服を気に入ったジャンの強い要望があってのことだ、という点には触れないでおこう。
その時、ソニアだけはこの案に反対したのだが、他のみんなが特に気にせず受け入れたため、従うしかなかった。ソニアの「胸が収まらないのに……」というぼやきに対して、ジャンは「だがそれがいい」とキリッとした表情で返す始末であった。
「あまり遅くまでいられないということで、一番目に出てもらうよ。まあ、ラムリィのメンバーだから初めてでもないし、気にならないだろう。ラムリィとソニアは去年まで常連だったし、リリスも最近顔を出しているからね」
控え室にやってきたジャンから、最初に出演することを告げられた。遠くから来ていることもあり、あまり遅くなると帰れなくなるからだ。それに、ロザリーンのようなお嬢様もメンバーに入っている。
「ジャン、ありがとう。この日がなかったら、僕ら何をやっていたかわからないよ」
ラムリーザは、ソニア、リリス、ユコを見ながら言った。この目標がなければ、雑談とゲームしかやっていなかった三人だ。ソニアがそれでいいと言うのなら、ただそれだけの理由であえて改善するつもりはなかった。しかし、リゲルが離れていったことや、リリスの夢について考えたとき、そして何より、この三人がネットゲーム廃人になりかけたとき、このままでいいのかと思ったのだった。
「礼を言いたいのはこっちのほうだって。お前は知らんかもしれないけど、ラムリーザのファンが結構いるんだぞ。なぁ、帝都には戻ってこないのか?」
ジャンが「帝都に戻ってこないのか」と問いかけたとき、リリスとユコ、特にリリスが困ったような顔をした。リリスの中では、自分の夢に向かって進んでいくには、今ではラムリーザの力が必要だということがわかっていた。
そういったリリスの懇願を読み取ったわけではないのだが、ラムリーザはジャンに答える。
「ごめんよ。でも僕は別に気分転換で帝都を離れたってわけじゃないんだ。この話は去年したよね」
「そうだったな。まあいいか、それでこうして新しい仲間もできたんだし、リリスとか掘り出し物だぞ、おい。ソニアよりリリスのほうがいいんじゃないか?」
「なんでそうなるのよ!」
「おっ、ソニアが怒った。お前、リリスがいい女だと思わないのか?」
「当たり前じゃない、こんなちっぱい。ラムはちっぱいが嫌いだって言った」
「言ってないってば、何を言い出すんだ君は……」
ジャンはリリスの胸をちらっと見て「ちっぱいかねぇ?」とつぶやいてから、ソニアの胸を凝視して「俺にはお前が極端なだけに見えるんだがな」と言った。
「ラム……、こいつ嫌い……」
そうつぶやきながらソニアは、胸に突き刺さる視線から逃れるようにラムリーザの後ろへ隠れた。
「ラムリィにしか興味のない奴に嫌われても、痛くも痒くもないわ――っと、そろそろ時間だぞ」
こうしてついに本番の時間がやってきた。立ち上がる六人に、不安な表情はない。この日のために、納得がいくまでじっくりと練習してきたんだから。
「さて、お集まりの皆さんこんばんは。今日は新しいグループがやってきました。その名は『ラムリーズ』。みんなのラムリーザが、新しいメンバーを率いて帰ってきました。それでは演奏をお楽しみください、どうぞ!」
ジャンの紹介で、六人はステージに上がっていった。そしてその途中で、リリスがラムリーザに話しかける。
「さっきの挨拶、なんだかラムリーザのいつもの挨拶とそっくりじゃない?」
「よく気がついたね、実はジャンの挨拶を真似ていたんだ。去年まではジャンがリーダーだったからね」
「ああ、そうなのね……」
この一連のやり取りを通して、ラムリーザはリリスの成長を感じ取った。彼女はステージ上で普通に話しかけてきたのだ。これまで慣らしてきた成果が、着実に現れている。このステージに上がるのも初めてじゃない。あとは……。
ステージ上にて――。
メンバーの準備が整うと、演出として、ラムリーザの挨拶もなしにいきなり演奏を始めた。
オープニングは、「拳闘士の入場」という曲をアレンジしたものを、前置きなしに始めるという演出だ。
軽快で少し滑稽なメロディに合わせて、「さあ登場、これから始まるよ!」といったニュアンスの歌を、ソニアとリリスが二人で歌った。
そして、オープニングが終わったところで、改めてラムリーザの挨拶が始まった。今日はこの顔ぶれでの初舞台ということで、メンバー紹介をしておいた。
「初めまして……じゃないね、僕は……」
出だしで躓いて、観客から笑いが起こる。
「こほん。ただいま、ラムリーザです。今日は新しいグループ、『ラムリーズ』を率いて戻ってきました。今日はメンバーの紹介をしておきます。まずは前列向かって左から、我がグループの二枚看板の一人、リリス・フロンティアです」
ラムリーザは、紹介しながらリリスの様子をじっと見る。リリスは、観客の視線を避けるようにサングラスの奥で目をつぶり、ギターを鳴らしてみせた。これを見て、ラムリーザはリリスがちゃんと「動いている」ことを確認し、ようやく安心することができた。サングラス作戦が効いているようだ。
これができたら、あとは流していけるはずだ。
「この娘はもうお馴染みだよね。同じく二枚看板の片割れ、ソニア・ルミナスです」
ラムリーザの紹介に、「ソニア久しぶりー」との声が上がる。
当のソニアは、オープニングが終わってからというもの、いつもの不思議な踊りをずっと踊っている最中だ。ラムリーザは、その踊りを軽くスルーして紹介を続ける。
「そして向かって右、ユコ・メープルタウン」
ユコは普段通りに、可愛らしい笑顔で観客に手を振っている。
そのとき、ジャンは「あれ、リリスにばかり目が行っててノーマークだったけど、このユコって娘も結構美人じゃね?」とつぶやいた。今のリリスの外見を作り上げたのが彼女だということを、ジャンは知る由もなかった。
「次にピアノ担当の、ロザリーン・ハーシェル」
ロザリーンは椅子から立ち上がり、観客のほうを向いてお辞儀する。
ジャンの感想は、「優等生タイプのお嬢様だな。性格は悪くないだろうが、真面目なタイプと付き合うのは苦手だ。まぁ、ラムリーザみたいな奴とならうまくやっていけるだろう」というものだった。
「最後に、ギター担当のリゲル・シュバルツシルトです。以上、『ラムリーズ』を今後ともよろしく!」
ラムリーザはこうしてメンバー紹介を締めたが、観客から「ラムリーザの紹介は?」と突っ込みが飛んだ。ラムリーザが「いや、知ってるでしょ」と返すと、「ブー、ブー」と冗談めかしたブーイングまで起こってしまう。だから仕方なく、「お馴染みのラムリーザです」とだけ簡潔に名乗って、先へ進むことにした。
もう一度リリスの様子を見てみると、リリスは不思議な踊りを踊っているソニアを見て、生暖かい微笑みを浮かべる余裕さえ見せていた。
それを見たラムリーザは、「よし、行ける」と確信した。
ラムリーザは大きく頷いて、「それではイッツ・ショー・タイム! お楽しみはこれからだ!」と声高らかに宣言して、演奏を開始した。
軽快なリズムとソニアとユコのコーラスから始まったその曲は、リリスがメインボーカルを務める一曲だ。この曲は、「ラムリーズ」として初めて校庭で演奏したときの曲だが、そのときリリスは歌えなかった。あのときは仕方なくソニアに歌わせることでごまかしたが、今回は……。
ステージのライトが、リリスの横顔だけをやけに白く浮かび上がらせていた。
マイクの前で、彼女の喉が小さく上下する。指先はコードを押さえたまま、ほんの僅かに震えているようにも見えた。
それでもリリスは、観客席ではなく、足元の影だけを見つめるように息を吸い込む。
――行ける。
ラムリーザは、鼓動の速さをごまかすようにスティックを握り直した。
――リリスが歌えた!
こうなったら、もう今日のライブは成功したも同然だ。二枚看板が機能してくれたら、怖いものはない。あとは勢いに任せて、突っ走るのみだ。
こうしてラストナンバーに設定したソニアの歌うギャルゲーのエンディングテーマ曲まで、無事に終えることができたのであった。
盛大な拍手の中、「ラムリーズ」のみんなは、客席に向かってお辞儀をして退場していった。ここに一つの時代が始まったことを告げるように。
帰りの汽車の中では、女性陣の興奮はまだ冷めやらなかった。お互いにライブの感想を述べ合っている。
そしてその様子を、少し離れた席から眺めていたのがラムリーザとリゲルだった。
準備期間は、ラムリーズ始動から一か月にも満たなかった。親友ジャンのお膳立ても大きかったが、それでもこの結果は上々と言えるだろう。
ラムリーザは、窓の外を流れていく夜景をぼんやり眺めながら、そっと息を吐いた。
ほんの思いつきで名前をつけ、半ば勢いで仲間を集め、気がつけば帝都のステージに立っていた。雑談部みたいに、そのうち自然消滅していくかもしれない――そんな未来も、ひょっとしたらあったかもしれない。
それでも今夜、客席から返ってきた拍手の重みだけは、嘘じゃないと思えた。たとえ明日がどう転んでも、「ラムリーズ」は確かにここから始まったのだ、と。
ラムリーズがさらなる発展を遂げるか、一発屋としてここで終わるか。それは、これからのメンバーたちの行動と頑張り次第なのであった。
新たな時代に、乾杯!