ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


マイン・ビルダーズ中編 ~ナイト・オブ・ザ・リビングデッド~

帝国暦九十二年 黄金の月・創世の日(現代暦:六月下旬)

 青い空、白い雲、木々のざわめき。どこまでも続く草原と、そこに生える草の香り。

 そこまでリアルな表現ではないが、ゲーム内の世界にラムリーザは解放感を覚えていた。

 何もかもがフリーダムな世界。ユートピアとでも言うのだろうか。

 分身となるキャラクターは自分に似せて作ったので、さほど違和感を感じない。

 ラムリーザは、寝転がる機能がないのを残念に思った。あくまでゲームだが、ここにも堪能したい自然がたっぷりあり、寝転がってのんびりしたいと考えていたのだ。

 

 突然、目の前の画面にブレが生じて、黒いレザージャケット、黒のレザースカート、黒髪の黒ずくめの美少女が姿を現した。

「おまちどおさま。あら、まだラムリーザしかログインしてないのね」

 リリスの声は、ゲーム内ではなくヘッドセット越しに聞こえてくるボイスチャットである。

「えっ、ラムリーザ様がリリスと二人きり? これは由々しき事態ですわ!」

 ボイスチャットは、コミュニティ全体に聞こえているので、ゲームにまだ現れていないユコも会話だけはできるのだ。ユコが何に対して慌てているのかは不明だが、やたらと忙しない感じがヘッドフォン越しに伝わってきた。

 ラムリーザとリリスが、特に何もするでもなくぼんやりと待っていると、再び画面のブレが生じて、水色のスーツを着た銀髪の、どこか冷たい雰囲気をまとった男性が姿を現した。

「ふむ、この世界は割と丁寧に創られているようだな」

「ああっ、ラムリーザ様とリゲルさんの二人にリリスが襲われてしまいますわ!」

「なんでそうなる、襲わないってば」

 一人で興奮しているユコをラムリーザは宥めるように言った。そう言いながらも、現実だとアウトだけど、ゲーム内で襲ってみるのはどうなのだろう、などと考えたりもしていた。そもそもこのゲームに、そんな機能は付いていない――と思う。

 そして、さらにその場に人物が現れた。白いワンピースに薄い金髪の、神秘的なイメージの美少女だ。

「お待たせしましたわ。みなさんお手柔らかに」

「くれぐれも、勝負事を切り出すなよ」

 ラムリーザは先に釘を刺しておいた。

 前回のネットゲーム騒動は、元をたどれば、ユコが「一番勝った人が何でも命令できる」などという無茶な勝負を提案したのが発端だった。そしてラムリーザは、そのことを覚えていたのだ。

「これはそういうゲームではないですわ!」

 そこにさらに人物が現れる。白いブラウスにスリムなジーンズを身につけた、明るい茶髪をくくってポニーテールにしている、知的な雰囲気の娘。

「こんばんは、こうやって集まって一緒にゲームするのは初めてなので、いろいろ教えてね」

「うむ」

 ロザリーンに真っ先に返事したのはリゲルだった。同じ天文学部ということもあって、リゲルはロザリーンに対しては親切なところがあるのだ。

 そして、そのリゲルが珍しく音頭を取る。

「よし、全員揃ったので、本格的に開始するぞ」

「ちょっと待って! あたしがまだ!」

「ん? 聞こえんな、もっと大きな声で言え」

「リゲル、あなた……」

「リゲルさん、マジでソニアの音声しぼってる……」

 リリスとユコは苦笑するしかなかったのである。

「だいたいソニア、君は何に手間取っているんだよ」

 ラムリーザはゲーム画面から目を離し、自分のいるテーブルの少し前にあるソファに座って、リビングの大画面モニターでプレイしているソニアの画面を見る。画面を見る限り、キャラクターセレクトで手間取っているようだ。

「こんなちっぱい、あたしじゃない……」

「そんなことどうでもいいじゃないか……」

 というわけで最後の一人、黄色いキャミソールに緑のミニスカート、青緑色の髪をした少女が現れた。

 いよいよゲーム開始だ。

 

 

「異世界ヤッホー!」

「さあ、狩りに出かけるよ!」

 ソニアとリリスの二人は、歓喜の叫び声を上げながら大平原に駆け出していってしまった。

「なんてフリーダムなやつらだ……」

 ラムリーザはそうつぶやき、自分は素直にチュートリアルモードを始めた。

 道具を作ったり素材を集めたりするのだ。最初にすることとして、拠点となる建物を造らなければいけないようなので、木材を集めて重ね、家のように組み立てていく。

 リゲルもユコもロザリーンも、おのおの自分のペースでチュートリアルをやっているようだ。

 せっかくなので、拠点となる建物は協力して造ることにした。

「そっち積んで」

「ん」

「あ、木の斧が壊れたわ」

「また作ってあげるよ」

 こんな具合に、四人は平和的なプレイをしていた。

 その一方で、ソニアとリリスはというと、大平原で狩りばかりやっている。

 リリスは羊を追いかけて殴り続けた。しばらく殴り続けると、羊は羊肉と羊毛を残して消えていくのだった。

「羊狩りって、ラムリーザ狩りになるのかな?」

「なんでそうなる……、というか君たちはどこで何をやっているんだ?」

 またラムリーザのことを羊と言う。以前にも、ラムだから羊だと言っていたことがあったけど。

 ヘッドセットのおかげで会話はできるが、リリスとソニアは遠くまで離れていってしまい、キャラクターの姿を確認することはできないのだ。姿は見えないのに会話はできるという状態に、ラムリーザは違和感を覚えていた。

「じゃあ、あたし羊は狩らない。代わりに牛を狩るわ」

 ラムリーザ狩りとか言われて、ソニアは羊を攻撃するのをやめてターゲットを牛に切り替える。こちらは、牛肉と皮を残して消えていくようだ。

「共食い?」

 リリスの小さく笑う声が、ヘッドセット越しに聞こえる。

「なんで共食いなのよ、あたし牛じゃないわ!」

「君たちはなぜ家畜を狩っているんだ? これってそんなゲーム?」

「これはそんなゲームだ」「これはそんなゲームだ」

 ソニアとリリスは、口を揃えて自分たちの行動を正当化するのだった。
              
それぞれが好き勝手に動き回る、穏やかなユートピアの昼。
 しばらくして、拠点となる建物ができたので、平和的な四人はそれぞれ自分のやりたいことを始めていた。

 ラムリーザは全体を見渡せるように、建物を上方向に増築して塔のようにしている。

 リゲルは棒と糸を使って釣竿をつくり、拠点の近くにある水辺で釣りを楽しんでいる。

 ロザリーンは、近辺の草を刈って作物の種を手に入れ、畑を作ろうとしている。

 そしてユコは、新しい部屋を造っていた。部屋が完成するなり、早速ラムリーザを誘ってくるのだった。

「ラムリーザ様、私たちの愛の巣ができあがりましたわ。ベッドも作成しましたので、どうぞおいでなさいませ」

「あんぽんたんめが」

 突然ユコがとんでもないことを言い出すので、思わずラムリーザは口走ってしまった。

「あっ、ユコ聞こえてるぞ! どさくさにまぎれてラムを寝取るな!」

 ちなみに、この場にいない二人は、相変わらず羊狩りと牛狩りに精を出していた。

「しょうがないですわね、それじゃあ私は動物保護でもやろうかしら」

 そう言って、ユコは拠点の近くに柵を造り、動物を集めて牧場のようなものを作り始めた。

 そんなみんなの様子を、ラムリーザは一人、塔の上から眺めているのだった。塔の上からだと、大平原のずっと向こうで狩りをしている二人も、点のように小さくなりながらも確認することができた。

 

 

 そうこうしているうちに、やがて日が暮れて夜が近づいてきた。

 夕焼けに染まる空を見上げながら、ラムリーザは胸の奥に、さっきまでの解放感とは違う妙なざわつきを覚えていた。どこかで似た景色を見たような気がする――そんな既視感を、ゲームだからと自分に言い聞かせて追い払う。

 リゲルは黙って建物の中へ戻り、ロザリーンもそれに倣って中へ入った。

 周囲が暗くなったので、ラムリーザは塔を降りてきて松明を作り、建物の入り口付近を明るくするために設置した。

 そしてユコは、夜になっても動物の連れ込み作業を続けていた。

「ユコ、夜になったからもう帰ろうか……ってゲームだから別にいいか」

 と、ラムリーザがつぶやいた時である。

 建物の周囲に、どろっとした人型の何かが湧いてきた。

 たとえるなら、ゾンビだ。

 そのゾンビは、動物を引き連れていたユコに襲い掛かってきた。

「ちょっと、何ですのこれは?!」

「なっ、何よこれ!」

「うわっ、何これ!」

 ソニア、リリス、ユコの三人が同時に驚きの声を上げる。

 どこにいるのかわからないが、狩りをしていた二人も襲われているようだ。

「ユコ! とりあえず家の中へ!」

「はいっ、ラムリーザ様!」

 ユコはそう言うと、襲い掛かってくるゾンビを振り切って建物の中に飛び込んできた。

 そしてラムリーザは素早く入り口の扉を閉め、入り口から少し離れて様子を見る。ゾンビの群れは扉に群がり、ドンドンと叩いているが、どうやら扉を開けることはできないようだ。

「とりあえず家の中にいれば安全みたいだけど……」

 ラムリーザは自分のモニターから目を離し、ソニアがプレイしている画面を見てみた。

 

 ソニアとリリスは、ゾンビの襲撃から逃げ惑っていた。

 無抵抗な動物と違って、ゾンビに素手で立ち向かうのは無謀とも言えるほどで、二人にそんな度胸はないようだ。

 そして、気がついたらゾンビの群れに囲まれているのだった。

「ラム! 助けて!」

「無理!」

 ソニアは悲鳴を上げてラムリーザに助けを求めるが、ラムリーザから見てどこにいるかも分からないのに救助に行くなんて無理な話だった。

「あっ……、ああっ!」

 結局ソニアはゾンビに蹂躙されてしまうのであった。
              
ソニアが、ゲームでゾンビにやられて悲鳴を上げる場面
――ソニア DEAD

 

「くっ……、ソニア……」

 残されたリリスも、風前の灯火だ。

 リリスは、何度もゾンビの攻撃を避けていた。そして、迫り来るゾンビを振り切って駆け出そうとした瞬間――

「えっ? まさか骸骨が矢を放つなんて……」

――リリスの胸に白い矢が刺さっていた。

 

――リリス DEAD

 

 

 プレイしていたソニアは、後ろを振り返り、涙目でラムリーザを睨み付け、口を尖らせて文句を言った。

「どうして助けてくれないのよー」

「君が何も考えずに遠くまで行くからじゃないか……ってか、夜になったらこんなことになるのな」

 ソニアはまだぶつぶつ言っていたが、コンティニューを選び、再びゲームの世界に戻ってきた。

 しかし、復活したのはラムリーザたちが建てた建物の傍。

 建物の入り口に群がっていたゾンビが、今度は近くに現れたソニアめがけて襲い掛かっていくのだった。

「なにこれ?! もうやだーっ!」

 ソニアの悲痛な叫び声が響く中、再びゾンビに蹂躙されるのであった。

 

――ソニア DEAD

 

 たかがゲームだ、と頭ではわかっている。だけど、ヘッドセット越しに聞こえたものと、直接耳に響いたソニアの悲鳴だけは、妙に生々しく耳に残った。さっきまでただの遊びだった世界が、音を立てて別の何かに変わっていくような感覚に、ラムリーザは小さく身震いした。

 穏やかなユートピアだったはずの世界が、悲惨なディストピアへ変わりつつあった。