ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


マイン・ビルダーズ前編 ~またまた魅惑の壷~

帝国暦九十二年 黄金の月・創世の日(現代暦:六月下旬)

「今日発売のマイン・ビルダーズってゲーム、おもしろそうよ」

 ライブ前日。今日も休み時間にゲーム雑誌を広げて、ソニア、リリス、ユコ、ロザリーンの四人はゲーム話に花を咲かせていた。

「みんなで世界を共有して、戦うもよし、狩りをするもよし、家作りや生産もできるサンドボックスゲーム。なんかいいね」

「でしょ? みんなでやろうよ」

「賛成!」

 女の子たちは盛り上がっている。ソニア、リリス、ユコは言わずもがな、実はロザリーンもゲームで遊ぶ娘だったのだ。

「ちょっと待て――」

 だがラムリーザは、嫌な予感がしてそんな彼女らの盛り上がりに水を差した。

「――みんなでやるって、それはネットゲームか?」

「サンドボックスゲーム」

 リリスは、じっとラムリーザの目を見つめ、自信満々な様子で言った。

 その表情を見て、ラムリーザは止めても無駄かと思い、諦めたように言い放った。

「んー……まあいい。もしまた前の時みたいになったら、僕はもう止めない。君たちとは絶交、ラムリーズも解散だ」

「ラムリーザ様、私たちも馬鹿じゃありませんわ、普通にプレイしますの」

「信じるぞ。あとソニアもだ。ゲーム廃人と一緒に暮らす気はないから、そうなったらすぐに学校専属の寮へ転入させるからな」

「ならないってばー、それよりもラムもやろうよ、ねー」

「またキュリオか……前みたいになったら本気でキュリオ封印だからな」

 そこに、リリスが「違うわ」と言いながらゲーム雑誌をラムリーザのほうに見せてくる。

「このゲームは、ゲーム機でやるゲームよ。だからキュリオは関係ないわ」

「ああ、それなら部屋に一台あるね。帰ってからやればいい」

「一台じゃ二人でプレイできないでしょ?」

「対戦ゲームはできているぞ」

「これは対戦じゃなくて、一人用ゲームをネットに繋いで同時プレイするものよ」

「ん……」

 そこでラムリーザは気がついた。

 確かに部屋には一台、ソニアが持ち込んだゲーム機がある。しかし、リリスの言うことに照らし合わせると……。

「もう一個、ゲーム機とモニター買ったほうがいいと思うよ!」

 ソニアの言うことは無茶苦茶だが、それしか方法がないことも確かだった。

「今日学校終わったらゲーム屋に行こうよ。ゲームはみんな買わなくちゃいけないしー」

「家に同じゲーム機が二台あるって、どういう状況だよ……あ、そうだ。なんだったらリゲルもやろう」

 ラムリーザはふと思いついてリゲルも誘ってみる。彼女たちが暴走した時に、ラムリーザ一人で抑えるのがめんどくさい。だから、リゲルにも緩衝材になってもらうことにしたのだ。

 ロザリーンのことはたぶん大丈夫だろうとあまり心配していないが、残る三人は前回のこともあって一緒にゲームをさせるのは怖いところがある。

 それに、これまでにリゲルがソニアの行動を抑えている場面も何度かあったし、ソニアもリゲルを少し怖がっている感じがする。

「は? 俺が?」

「せっかくだし、リゲルもゲーム好きだとか言ってたじゃないか」

「ゲームはやるけど、何でこいつらと?」

「まーまー、そう言わずに監視役でいいから手伝ってくれよ、このとおり!」

 ラムリーザに頭を下げられて、リゲルはしぶしぶ自分も参加することにした。

 そして一言、「領主になるやつが、軽々しく頭下げないほうがいいぞ」と忠告めいたことを言うのであった。

 

 放課後、六人はそろってゲーム屋のぶくぶく書店に向かっていた。

「演奏の練習は?」という話も上がったが、もう十分やったし、あとは明日の本番を待つだけというところまで来ていたので、息抜きも必要だろうという結論になったのである。

 ゲーム屋では、みんなで一本ずつ「マイン・ビルダーズ」のソフトを購入した。それに加えて、ラムリーザはモニターとゲーム機を追加で購入した。

「なんというか、同じソフトが二本になるんだな……」

「世の中には、プレイするため、飾って鑑賞するため、布教するために一人で三本買う人もいるのよ」

「ラムリーザ様がお金持ちで助かりますわね」

 ラムリーザは、リリスの説明に驚愕し、ユコの言葉に苦笑いした。そんな偏執的な蒐集家がいるなんて、聞いたことがない。

「ユコ、あんた、その様付けずっと続けるの?」

 そこに、ソニアの不満そうな声が続いた。

「当然ですわ、何度も言うけどラムリーザ様は私の尊敬する方ですのよ!」

「くっ……ラム様……違う……」

 ユコの剣幕に押されてソニアも様付けしてみようと思ったが、どうやら馴染めないようで口ごもる。

「あ、そうそう。ヘッドセットも買っていってね」

 リリスは追加で提案した。

 ヘッドセットを使えば、ゲームをしながらリアルタイムで会話のやり取りができるというのだ。

 リリスとユコはすでに所持していて、よく使いながら一緒にプレイしているというのだった。

 幸い、まだ持っていなかったのがお金持ち組だったので、追加で買うのに不自由しなかった。

 ところが一人だけ庶民がいたようだ。

 ソニアは「ラム……ヘッドセットを買うお金がない……」とつぶやき、さっきまでの勢いとは打って変わって、しおしおとラムリーザのほうを見上げてきた。

 結局ラムリーザは、ソニアの分のヘッドセットも買うことになってしまった。たかが一本のゲームをやるために、何をこんなに買い込んでいるんだろう……と思いながら。

 

 みんなと別れて、ラムリーザとソニアは下宿先の屋敷にある自室に帰ってきた。

 そしてラムリーザは、モニターとゲーム機をテーブルの上に並べる作業に取り掛かった。買ってきたばかりのモニターの箱を開けると、新品特有の硬質な匂いが部屋に広がる。

 そこは食卓テーブルなのだが、食事の時間は下宿先の食堂を使うので、普段この部屋で食事をすることはなく、テーブルも食卓としては使っていないのだ。主な用途は学校の宿題をする時だが、その時はモニターなどをテーブルから下ろせば問題ない。

 しばらく経ってセットが完了し、ラムリーザがゲームの説明書を眺めていると、ソファーに座ったソニアが振り返った。

「ねえラム、これ、あたしの声聞こえてる?」

 目の前に座っているのに、耳元のスピーカーからソニアの声が降ってくる。デジタルとアナログが混ざり合う、なんとも不思議な夜の始まりだった。

 続いて、ラムリーザとソニアの携帯型情報端末キュリオが同時に着信音を鳴らした。

 見てみると、リリスからのメールだった。

 

差出人:リリス

宛先:ソニア、ラムリーザ、リゲル、ロザリーン

件名:コミュニティ

内容:ネットにつないだら、コミュニティ「魅惑の壷」に参加してね(^ー゚)ノ

 

「……また魅惑の壷か」

 ラムリーザは前回やったネットゲームの同盟を思い出して顔をしかめる。

 あの時みたいに、夜通し画面の向こうに意識を持っていかれるのだけは勘弁だ。

 それでも、こうしてまたみんなで同じタイトルを買って、同じ画面の中に集まろうとしている自分がいる。懲りてないのか、ただ楽しかった記憶のほうを強く覚えているのか、そのあたりは自分でもよくわからない。

 そんなわけで、過去のことを蒸し返しても仕方ない。だからラムリーザは、ゲーム機を立ち上げてコミュニティに接続することにした。

「えーと、魅惑の壷、魅惑の壷……ったく、怪しい壷売りじゃあるまいし、なんで壷なんだよ……って、あった。コミュニティ申請っと」

 ラムリーザは、ぶつぶつとつぶやきながらコントローラーで操作している。

 

[ラムリーザ・フォレスターがコミュニティ 魅惑の壷 に参加しました]

 

 しばらく経って、このように画面に表示された。

 そして、画面に表示されている音声チャットを有効にすると、すぐにヘッドセットから声が聞こえた。

 

『ラムリーザってやっぱりフォレスターなんだね』

『さすがラムリーザ様ってところですわね』

 

「えーと、これでいいのかな? 聞こえているかな?」

 

『あ、ラムリーザようこそ』

『お待ちしておりましたわ』

 

 どうやら通じているようだ。

 電話みたいなものだな、とラムリーザは思った。

 

[ロザリーン・ハーシェルがコミュニティ 魅惑の壷 に参加しました]

[ソニア・ルミナスがコミュニティ 魅惑の壷 に参加しました]

 

 しばらくして、画面に次々とコミュニティ参加者が表示されていく。

 

『あとはリゲルさんだけですわね』

『みなさんごきげんよう』

「よろしくねー」『よろしくねー』
              
ラムリーザとソニアが、ネットのコミュニティに入って雑談する場面
 やはりソニアだけ、ヘッドセットから聞こえる声と、同じ部屋から聞こえる声が重なって、なんか妙な感じに聞こえる。元々の声が高く響くのでなおさらだ。ラムリーザの位置からだと、ソニアはテーブルのすぐ前にあるソファーにいるので、声が両方から聞こえてくるのだ。

 リゲルは果たして来てくれるかな、とラムリーザが考えていたところで――

 

[リゲル・シュバルツシルトがコミュニティ 魅惑の壷 に参加しました]

 

 ――と表示された。

「これで全員集合だよ!」

 とソニアが元気よく叫ぶ。するとすぐに、リゲルの舌打ちが続けて聞こえてきた。

 

『なあ、これって個別に音声のボリューム調整できないのか?』

『どうするんですの?』

『ソニアの音声小さくする』

「なんでよ!」『なんでよ!』

『うるさいぞ、もっと静かにしゃべれ……』

「むー……」『むー……』

「揉めてないで、早速ゲーム開始するぞ」

『おー』『おー』『おー』『おー』

 

 娘たちの元気な掛け声とともに、六人の「マイン・ビルダーズ」が始まるのであった。

 ゲームのタイトルロゴが鮮やかに浮かび上がり、オーケストラの調べがスピーカーから流れ出す。画面の中では、まだ何も書かれていない真っ白な地図が、ラムリーザたちの訪れを待っていた。

 ヘッドセットから漏れるユコの鼻歌、ソニアの興奮した吐息、そして不機嫌そうなリゲルの舌打ち。

 夜はまだ、始まったばかり。

 現実の時間は、ゲームのロード時間よりもずっと速く過ぎていこうとしていた。

 初の六人同時プレイ、いったい何が起こるのか……。