ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


帝都でデート、ただし共通ルート

帝国暦九十二年 黄金の月・賢者の日(現代暦:六月中旬)

 この週末も、先週末と同じように、ラムリーザはソニアとリリスを連れて帝都を訪れていた。

 連れてくる必要があるのは本来リリスだけなのだが、二人きりで泊まりがけで出かけるのはソニアが許さない。曰く「二人きりで出かけるとリリス個別ルートになるから、あたしもついていって共通ルートということにする」のだそうだ。

 ゲーム理論はともかくとして、ラムリーザはソニアに変な誤解をされたり、不安にさせたりするわけにもいかないので、特に気にせず連れてきているのである。

 三人は、日の高いうちは繁華街で時間をつぶし、帝都でも有名なクラブである「シャングリラ・ナイト・フィーバー」の営業が始まるのを待っていた。

 その時、リリスは申し訳なさそうにラムリーザに聞いた。

「ねぇラムリーザ、毎回帝都のクラブに行かなくても、地元のクラブでもいいんじゃないの? どこでも場慣れはできると思うし」

「うん、そうだろうね」

「こんな有名クラブに潜り込ませてくれるなんて、なんだか申し訳なくて……」

「いいんだよ、ここだと顔が利くし、ジャンは親友だからいろいろと無理を通してくれるし。でも向こうだと、僕の影響力はあまりないからねぇ」

「ほんとうに、いつもありがとう、ラムリーザ」

 こうしてラムリーザとリリスの二人がいい感じになると、それを気に入らないのがソニアだ。

「リリスに対してフラグ立てまくるな!」
              
ラムリーザとリリスがいい感じになるので、間にソニアが割って入る場面
 そう言いながら、自分の立ち位置を変えて、ラムリーザとリリスの間に割り込んでくる。もともとはラムリーザを中心に横に並んでいたが、これによって今度はソニアが中央に立つ形になった。

「フラグって何だよ……」

「ソニアは涙イベントでも発生させて、ラムリーザに対して敵対落ちしたらいいのに、くすくす」

「敵対落ちって何だよ……」

「くっ、本気で寝取るつもりだ……」

 ソニアはリリスを睨みつけるが、リリスは微笑を浮かべながら余裕のある態度で、その視線を受け流している。ラムリーザは、困惑した表情でそんな二人を見つめている。

「とりあえずだが――」

 ラムリーザは、わけのわからないことを並べ立てる二人を見ながら静かに語った。

「――包丁や鋸を振り回すような事態は、二人とも避けるように、ね」

「はぁ?」

「いや、そこまではしないよ……」

 ラムリーザに無茶苦茶な展開を語られ、二人が言葉を失った時、横から突然声をかけられた。

「ヒアーズ、ジョニー!」

「びっくりした!」

 そこに突然現れたのはジャンだ。

「ジャンか、驚かすなよ」

「いや、さっきのはアレだろ? ほら、二人の女が一人の男を奪い合って、男は女に殺され、残った女が同士殺しあうというあの話だろ? あ、ジョニーじゃなくて、ナイスボートと挨拶したほうがよかったかな?」

「いや、意味分からんて。というか、そんな猟奇殺人事件みたいなことは避けようね、みんな」

「そんな大げさなこと、あたしやらないよ!」

「しかしラムリィ、優柔不断は感心せんな。リリスかソニアかはっきり決めないとな。中途半端だと、いよいよ刃物が飛び交うぞ?」

 ジャンは、登場時のおどけた態度を消して、真顔になってラムリーザに忠告めいたことを言ってきた。しかし、そのようなことを言われてもラムリーザは困る。

「いや、僕は最初からソニア一筋だって。ソニアが勝手に騒いでいるだけだし、リリスはグループのために練習で連れてきているだけだよ」

 それを聞いて、リリスは一瞬困ったような顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻り、「今はそれでいいわ」とつぶやいた。

「ま、お前ならハーレムを築いたところで、世間は表立って責められないだろうけどな」

「ほーお、僕はそのハーレムとやらを築いてもいいのか……」

「ダメ! そんなの嫌!」

 ジャンに唆されて、ちょっとその気を見せたラムリーザを責めるソニアであった。

 

 日が暮れて、シャングリラ・ナイト・フィーバーの宴が始まった。

 この日も、他のグループに頼み込んで、リリスをサブギター扱いで加えてもらい、ステージに上げて演奏させた。

 そのグループのリーダーも、「リリスを正式メンバーに欲しい」と言ってきたのだが、ラムリーザは「それだけは申し訳ない」と言って断り続けるのだった。やはりリリスは、帝都では人気者だ。

「私、ボーカルとリードギターなんだけどな」

 リリスは不満そうにラムリーザにそうつぶやいてきたので、ラムリーザは「『ラムリーズ』のな」と言ってたしなめた。それでも、そうつぶやくということは、それだけ心に余裕が生まれてきたということだろう。

 

 ラムリーザとソニアの二人は、今日は客席のほうでまったりとしている。

「ラム、リリスは慣れてきているかな」

「もちろん、慣れてもらわないと、リリスの夢も潰れちゃうからね」

「ねぇ、リリスの夢の手伝いもいいけど、あたしの夢の手伝いも……」

 ソニアはそう言いかけて、ラムリーザから視線を逸らしてステージのほうをちらっと見た。

「んー? ふむ、結婚前提で付き合ってる、これってソニアの夢の手伝いになってないか?」

「んー、んー、んーっ」

 ソニアは、それを聞いて何だかうれしそうに悶えている。

 それを見たラムリーザは、とりあえず言ってみただけだったが、それがソニアの夢なのか……と一人納得する。そして、さっさと結婚してしまえば、こいつの暴走も思い込みもなくなるのかな、などと考えるのであった。

「んんーっ、んー、んんんーっっ!」

 その時、ソニアの悶え方が先ほどよりも強烈になってきた。よく見ると、後ろに誰かがいて、ソニアのわきの下をくすぐり始めている。

「ソニアちゃーん、また来たのねー?」

「……メルティアか」

 今日もソニアは、帝都の友達メルティアによるいたずら攻撃の洗礼を受けていた。

 その時、ラムリーザとソニアが持っていた携帯型の情報端末キュリオから、着信音が鳴った。

 ステージ上のリリスも、一瞬ポケットに目をやったということは、彼女のほうにも着信が来たということだろう。

 メルティアの攻めを受けて悶えているソニアを横目に、ラムリーザはキュリオを取り出して覗いてみた。そこには、一通のメールが届いていることが表示されていた。

 

差出人:ユコ

宛先:ソニア、ラムリーザ、リリス

件名:明日の件

内容:明日昼から私の誕生日パーティーするのに、みんな帝都にいるみたいだけど大丈夫?(´・ω・`)?

 

「あ……」

 ラムリーザはつぶやいた。

「しまった、ユコの誕生日忘れてた。ソニア、ちょっといいかな?」

「ふっ、ふえぇっ! やめっ、メルティア、やめってっ、んっ」

「…………」

 こっちもそれどころではない。ソニアは悶えているのか笑っているのか、よくわからない様子を見せている。

 ラムリーザは、やれやれといった表情でメルティアに言った。

「悪いなメルティア、ちょっと用事ができて帰ることになったから、今日はその辺りでソニアを許してやってくれ」

「あらそう? しょうがないなー、じゃ、今日はこれで許してあげるわよん」

「ま、待ってよ、はぁ、はぁ。あ、あたし何も悪いことしてなっ、ないのに許すって、なに、よっ!」

「それじゃソニア行くぞ」

 ラムリーザは立ち上がり、ソニアの手を引っ張って立たせる。

 息の荒いソニアはふらふらと立ち上がり、そのままラムリーザのほうに寄りかかるようにして、力ない足取りで歩いていく。

 舞台袖へ向かう途中、ラムリーザはステージ上のリリスのほうを見て、彼女と目が合うと、「その曲が終わったら引き上げるように」という意味を込めて手招きした。そしてリリスが頷いたのを確認して、舞台袖に入っていった。

「ジャン、悪いけど急用ができたから、今日はここらで帰ることにするよ」

「そっか、仕方ないな。それじゃあ来週の本番、楽しみにしているよ――」

 そこでジャンは、なんとなくソニアのほうに目をやった。ソニアは先ほどから、「はぁ、はぁ」と息が荒い。

「――と、それよりも、ソニアどったの? なんか発情してるみたいでエロいんだけど」

「そっとしておいてくれ、メルティアのいたずらだ」

「ああ、いつものことね」

 といった具合に、意味深なようで実はとくに意味もない会話をしているところへ、ちょうどやっていた曲を終えたリリスがグループを抜けて戻ってきたので、ラムリーザは二人を連れてジャンの店を出ていった。

 

「さて、明日のユコの誕生日パーティーだが、今からだと今日中に戻ることができるね」

「プレゼント買ってないわ、そういえば今日買いに行くつもりだった」

 ラムリーザは、これから急いでポッターズ・ブラフに帰ろうと思ったが、リリスがプレゼントを買っていないと言ったので、

「プレゼントね。よし、この近くの大型デパートを回って選ぼう。固まって動いてもしょうがないから、別行動ね。終わったらこの入り口付近で待機、いいね」

 というわけで、三人はデパート内で散らばり、それぞれ自分の思うプレゼントを探しに行ったのであった。

 一人になってしばらくしてから、ラムリーザはしまったと思った。リリスからユコの好みを聞いておくのを忘れていた。

 だが、リリスを探すのも、自分であれこれ考えている時間ももったいないので、ラムリーザは特に深く考えずに宝石店へ入った。とりあえず、ユコも女の子だから、宝石なら気に入ってくれるだろうと考えたのだ。実際、ソニアにもいろいろ買ってあげたが、その度に喜んでいた。

 しかし、ユコの好きな色がわからない。これがソニアだったら、迷うことなく緑色の宝石を選ぶのだが。

 そこでラムリーザは、誕生石をプレゼントすることにした。ユコの誕生日は黄金の月だ。

「黄金の月と言えば、金とパールとムーンストーンか……」

 指輪はサイズが分からないので、ネックレスにしようか、と考えた。ちょうどいい具合に、連なったパールと金の台座にムーンストーンが組み合わさったものがあったので、ラムリーザからのプレゼントはそれに決めることにした。

 ラムリーザは自分の指先を見つめ、それをユコの細い首筋にかける場面を想像してみる。

「(派手さはないけれど、神秘的な彼女には、この月の雫のような輝きが似合うかもしれないな……)」

 自分の目利きを信じ、ラムリーザは店員に短く告げた。

 

 それぞれがプレゼントを選び終わり、デパートの入り口に戻ってきたときには、時刻はすでに夜の九時を大きく回っていた。

 これから汽車に乗って帰るのでは、ものすごく遅くなってしまう。そこで今夜は、再び帝都のフォレスター邸に泊まることにした。

 フォレスター邸の静かな寝室には、時計の針の音だけが刻まれている。

 テーブルに置かれた三つの小さな箱。それぞれが選んだ「お祝い」の気持ちが、明日ユコに届くのを待っている。

「……やっぱり、僕が歩いているのは共通ルートなのかな」

 窓の外に浮かぶ欠けた月を見上げて、ラムリーザは苦笑した。ソニアの「個別ルート」に入っているつもりだが、こういう「共通ルート」も悪くない。

 明日は、ユコの誕生日という共通ルートイベント。新しい一日が、また騒がしいメロディを連れてくる。

 重い瞼を閉じると、微かなパールとムーンストーンの輝きが、夢の入り口で白く滲んだ。