ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記
The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle
グループのリーダーはラムリーザ「様」?
帝国暦九十二年 豊灯の月・旅人の日(現代暦:五月下旬)
「ア・ルシーアオーゥ!」
軽音楽部の部室に、ソニアのけたたましいシャウトが響き渡る。
この日の部活は、もはや雑談部ではなく、れっきとした軽音楽部になっていた。
先週までと違い、ソニアとリリスは、ユコの持ってきた楽譜集から、二人の知っている曲をいくつか抜き出して気ままに演奏している。楽器はリードギターとベースで、即興に近い形で演奏しているだけだが、それなりに形になっているようだ。そしてその様子をロザリーンが楽しそうに見ていた。
とりあえず今のところの雰囲気は良好だが、この二人は口げんかに発展しやすいから油断できない。主にリリスがからかって、それにソニアが反応しているのがいつもの流れだが……。
一方、ラムリーザは、ユコのスコア集から知っている曲や、すぐに演奏できそうな曲を選別していた。
ジャンの話では、持ち時間が一時間から二時間。そして一曲演奏するのにかかる時間が、曲と曲の間を含めてだいたい三分から五分ぐらいで、換算すると最低十二曲は必要になる。
そして、ユコがこれまでに作成していた楽譜集には、必要な曲数を十分に満たす曲があった。
「ラムリーザさん、グループとして何かこだわりはありますの?」
「そうだなぁ。ユコはたくさん歌いたい?」
「いえ、私は特に……」
「そうか。それならこのグループは、ソニアとリリスを主体にやっていこうと思う」
「ふーん」
「見てごらん」
そう言って、ラムリーザは並んで演奏しているソニアとリリスを見る。
リリスの美貌は言わずもがな、ソニアも並べてみれば引けを取らない。多少ソニアに対するひいき目はあったが、ラムリーザ自身はそう思っていた。
「ソニアが右利きで、リリスが左利きか……」
そういうこともあって、演奏する二人が並ぶと対称になり、これも絵になっている。
これを見ながら、ラムリーザの中では少しばかりメンバー配置のイメージができあがってきていた。
ステージに向かって左からリリス、ソニア、右にキーボードのユコを配置しようと考えた。ロザリーンはピアノだから前に配置することができないので、前列はソニア、リリス、ユコの三人でいいだろう。
左右対称のヘッドの角度、シールドの弧、ソニアの足元のペダルとリリスの指板の光沢。見た目だけで「バンドの顔」になる。
さりげなくソニアがセンターになるように考えているのは、やはり贔屓目か。
「だから、歌は二人で歌うものをメインにする。ユニゾンになっているものはいいとして、主旋律になるものは二人で半々に、ソロで歌うものも半々になるようにしよう」
「ラムリーザさんは歌わないのですか?」
「僕は縁の下の力持ちでいいよ」
「もったいないですわ、優しい声をしているのに」
「それを言ったら、ユコも優しい声をしているじゃないか」
「そ……そう?」
うれしそうに頬を赤らめるユコ。「はは」「うふふ」と二人で笑い合うのだった。
「ラムとユコがいい感じになっている、なんでだろー、なんでだろー」
伴奏に合わせて、ソニアが適当な歌詞で歌いはじめた。ラムリーザとユコが仲良さそうに二人で楽譜を見ているので、また嫉妬したようだ。ソニアにラムリーザが困ったような笑顔を見せると、ソニアはぷいと顔を背けてしまった。
「ところでグループ名は何にするのかしら? それも決めないとダメじゃないの?」
一通り演奏を終えたリリスが、二人が楽譜を選別しているテーブルにやってきて尋ねた。
「あ……」
ラムリーザは昨晩、勢いで勝手にグループ名を登録したことを思い出した。今さら取り繕っても仕方がないので、少し決まりが悪そうに答えることとなった。
「ごめん、『ラムリーズ』で登録しちゃった。ははは……」
「ラムリーズ?」
リリスは眉をひそめて復唱し、「うーん」と唸った。
ソニアはぱっと顔を輝かせ、名前を口の中で転がすように何度も繰り返した。
「ラムリーズ……あたしたちの夢が、戻ってきたんだ。ね、ラム、これで本当に始まるんだね」
昔から、ラムリーザとその妹ソフィリータと一緒にやっていたときの名前だったので、ソニアに異議はないようだ。
彼女はベースのストラップをきゅっと握り、足先が小刻みに弾む。過去のリビング・セッションと、今ここが一筋に繋がった、そんな顔をしている。
対してリリスは、一拍置いてから低く復唱した。
「ラムリーズ……音節は四、語尾が伸びる。呼びやすいけど、強度はどうかしら」
手帳を開くと、略称などを書き分け、口の中でコール&レスポンスを試す。
「観客の口に残るか、ロゴの組み方、頭文字の視認性……。レコードのジャケットに載った時、どう映えるかしら」
すでにレコードデビューまで考えているような気の早い彼女は視線を上げ、わずかに口角を上げる。
「――悪くないわ。軽いけど抜ける。愛称『リリス&ラムズ』で固めれば、ステージコールも回るわ」
「さりげなく自分とラムを混ぜないでよ!」
リリスの思惑をすぐにソニアは察して声を張り上げた。
「決まり! 今日からラムリーズ! リリスの名前は要らない!」とソニアが弾む横で、リリスはペンで二重丸を付け、静かに頷く。
思い出を燃料にした歓喜と、ブランド設計としての了解。その二つが、同じ名前に別々の意味で点火する。
二人の話が落ち着いたところで、ラムリーザはリゲルにも話を振った。
「リゲル、グループ名は何がいい?」
ラムリーザは、とりあえずみんなに聞いて、それで改めて名前を決めるのがいいかなと考えていた。別にプロデビューするわけじゃない。途中でいくらでも変更しても問題ないだろう。
「ん、とくにこだわりはない。ラムリーズに決めたのならそれでいい」
これからは真面目に活動するという話を信じて、再び部活に顔を出しているリゲルは、とくにこだわりはないようで、手にしたギターをいじりながら静かに答えた。
「はい二票、ロザリーンは?」
「えっ? ああ、ラムリーザさんが決めたのなら、それでいいと思います」
「ラムリーズに三票、半数に達しましたわね」
「そういうユコは?」
「私もラムリーザさんに従いますわ。グループの顔はリリスとソニアでも、グループの頭脳はラムリーザさんですし」
「いや、頭脳って……」
「この話を持ち込んでくれたのもラムリーザさんですし。あなたがいなかったら、何も始まりませんでしたわ」
妙にラムリーザを持ち上げるユコを見て、ソニアは少しむっとした顔をする。
「グループの顔は私とソニアって何かしら? リードボーカルは私に任せておけばいいのよ」
リリスは、ラムリーザの横に立つソニアを押しのけて自分をアピールする。
「ちょっと押さないでよ、あたしも歌うんだから」
ソニアも負けじとリリスを押し返してラムリーザの隣に乗り出す。
「あなたは裏方に回って、黙々とベース弾いてたらいいのよ」
「あたしのほうが声がいいんだから、あたしが歌ったほうがいいって」
「そうかしら? ぎゃーぎゃーうるさいようにしか聞こえないけど」
「ちょっ、なっ、うるさいって何よ!」
「そこまでだ。あんまり騒ぐな!」
ラムリーザは、先日とまったく同じ言い合いが始まりかけたので、声を上げて二人を制する。
二人の言い争いはただの挑発と自己主張のつもりだった。けれど、二人の声の奥にほんの少しだけ、音楽の旋律に似た棘が混じっていた。後にその棘は、彼女たちの作る歌のどこかに姿を変えて残ることになる――二人も知らぬままに。
「……うるさいやつだ、そもそも目立ちたい癖に、なんでベースやってるんだ?」
リゲルがうんざりしたような言い方でソニアに問いかける。その目は冷たく睨みつけていた。
「だって、ラムと一体感が得られるんだもん……」
「ちっ」
ソニアの答えが気に入らなかったのか、舌打ちしてリゲルはソニアから目をそらす。
「あー、こほん。ラムリーズは、ソニアとリリスの二枚看板で行く。喧嘩せずに仲良く半分こ、前回も言ったけどこれは決定事項だからね」
ラムリーザは力強く言い放つ。どちらかだけにしたところで喧嘩するだけだし、選ばれなかったほうに不満が残る。それなら最初から二人を平等にしておいたほうが、無用の争いは発生しない。
それにリリスは低めの囁きで抜けるタイプ、ソニアは中高域に華が乗るタイプ。二枚看板の「棲み分け」を音の言葉で表したほうがよい。
「ふう、しょうがないわね」
リリスはため息をつきながら、それでも納得してくれたようだ。
「うふふ、ラムリーザさんがやっぱり中心人物ですわね。それに、あのゲームで命令できる権利を獲得できましたものね」
「おい……あのゲームの一番賞の命令権って永続だったのか?」
「すばらしいですわ。ラムリーザ様と呼んでもよろしいでしょうか?」
「いや……様って……」
ラムリーザの耳に「様」という二音が残る。心当たりはない――はずなのに、草原に漂う草の匂いまで連れてくる。「ラムリーザ様」、一度だけ、こんな風に呼ばれた場面が確かにあった、そんな気がする。
それに、命令権とか様付けとか、いろいろとツッコミたいが、ユコは自己陶酔しているみたいで全然聞いていない。
「だーかーらー、なんで二人がいい感じになるのよ!」
ソニアは、ツッコミどころ以外に不満があるようだ。
「何ですの? 今、私はラムリーザ様とお話していますの」
どうやらユコは、今後はラムリーザ様と呼び続けるようだ。だからラムリーザは、ちょっと無茶なことを言ってみた。
「じゃあ何だ? ユコは脱げと命令すれば脱ぐのか?」
「ソニア! ラムリーザ様が脱げと言ってますわよ!」
「なんでそうなるのよ!」
ユコは、さらりと命令をソニアへ受け流し、それでいて得意げな顔をしているのだ。
「あーもうわけが分からん! ……っといかん、また雑談部になっとる。えーとソニア、リズムの練習するぞ。ギターはえーと、リリス?」
「私はリードギター」
「それじゃあリゲル来てくれ。リズム合わせてみよう」
「いいだろう。リズムに乗れないのなら、一人で弾いていたほうがいいからな」
それを聞いて、リリスはちょっとむっとした顔を見せる。
このグループの二枚看板はわがままだ、と少し思いながら、ラムリーザは雑談部になりかけた雰囲気を元に戻した。
何はともあれ、目標ができたグループは、それを目指して一緒に進んでいけるようになったのである。
夢の伏線は、冗談めかした敬称の形で現実に立ち上がった。あとは音で証明すればいい。