ラムリーザ・サーガ フォレストピア創造記

The Ramlyza Saga – Forestpia Chronicle


主要人物勢ぞろいするも、再生はまだ押されず

帝国暦九十二年 朧影の月・学匠の日(現代暦:四月中旬)

「でね、でね、本当にいい歌だったよ」

「へぇ、聞いてみたいですわね」

「うん、今度録音してきてユコにも聞かせてあげるよ。ドキドキパラダイスのエンディングテーマ、『キーラキーラ煌めく光がー』って感じに始まるの」

「いい歌だったら、スコアに書き出してみますわ」

「ボーカルは私に任せてもらおうかしら」

「ダメよ、この歌はあたしが見つけてきたんだからあたしが歌うの!」

 放課後の部室にて。

 楽器が届いて準備は完了したものの、メンバーが揃って雑談しているのはここのところいつものことで、この場はすっかり雑談部と化してしまっている。向かい合った二人掛けのソファーに陣取り、ラムリーザとソニア、リリスとユコの四人が集まっていた。

 変わったのは、四人の距離感だけ。以前の、ぬるく淀んでいた空気はなくなり、四人の距離はぐっと縮まっていた。

 昨夜のこともあって自信を取り戻したソニアは、リリスとユコを相手にしても臆することなく、仲良さそうに雑談に花を咲かせていた。

 これでは軽音楽部ではなく雑談部だ。でも最初は、こうして親睦を深めるのもよいのかもしれない。

「ところでさ、それって確か男性向け恋愛ゲームじゃなかったかしら? ソニアはそういうジャンルもプレイするの?」

 リリスのもっともな質問に、ソニアは慌てて答える。

「え、あ、いや、ラムがプレイしていたのを見てたんだ。ラムはね、幼なじみのリルカが好みなんだって!」

 ちゃっかりラムリーザのせいにしてしまった。このままだと、膝裏へのキスも、電話ボックスでの雨宿りも、ラムリーザが望んだことにされかねない。

「おいこら、リルカって誰だよ」

「ラムリーザが?」

「あらあら、ラムリーザさんも好きですのね」

「違……いやまあ別にいいけどね。まったく、しょうがないな」

 ラムリーザはその場に居づらくなり、ソファーを離れて、一人で届いたばかりの新しいドラムを叩き始めた。

 スネアのリムを軽く二度叩き、間を置いてタムに落とす。机の端には昨夜の手書きの五線譜があり、題名だけが「電話ボックスの雨宿り」と書かれたまま、他は白紙のままだ。

 キラキラ煌めく光が、二人の未来を照らすように――

「いや、それだとドキドキパラダイスのエンディングテーマじゃないか……」

 ラムリーザは、一人で頭を抱えてつぶやいていた。画面は見させてもらえなかったが、音楽や歌だけは聞こえていた。ソニアはいい歌だったというが、ラムリーザにも妙に印象に残る歌だった。

 「雨粒」「山風」などの言葉だけが、昨夜のメモに残っている。足りないのは、最初の一音にふさわしい言葉だけだ。しかし言葉が一行目に降りてこない。鉛筆は紙の端をなぞるばかりだった。

 夕陽も木漏れ日も思い出もすべて、君と出会えた奇跡にありがとう――

「だからそれは――」

 どうやらギャルゲーの影響が抜けきっていない今のラムリーザには、作詞は難しいようだ。

 タタトンっと、ドラムの音だけがリズムよく鳴っていた。

 歌詞が浮かばないことや、雑談ばかりしているメンバーのことに少し憤りを感じながらも、ソニアが二人と仲良くしてくれているので、それはそれで歓迎だと思うところもあった。

 実際、ソニアにとっては初めての土地でもあり、友達はおろか顔見知りすらいなかった。そのため、余計にラムリーザに依存するしかなく、必要以上の不安感をもたらしていたのだった。

 ようやくそれが解消されたということだ。ラムリーザが本当に好きな、本来の姿である勝気で元気なソニアが戻ってきたと言えるかもしれない。

 そして今度は、ラムリーザの奏でるリズムを背景音に、相変わらず雑談が続いていた。三人が微妙に縦ノリしているのは気のせいだろうか。

「ところでソニア、あなた、ブレスレットと指輪をつけているのね」

 リリスは、ソニアの両腕を見て言った。確かにソニアは、右手にエメラルドが数珠つなぎになったブレスレットをはめ、左手の薬指には、これまたエメラルドの指輪をはめている。

 これまでは、リリスとユコに対して自信がなさそうに両手を下ろして俯き気味だったのだが、先述の通り自信を取り戻したソニアは、両手をテーブルの上に乗せて、前に乗り出すようにして向かい合った二人と話をしているのだ。

 そのため、両手にはめたアクセサリーがリリスの目に留まったというわけだ。

「いいでしょー。どっちもエメラルドよ。エメラルドは永遠の輝き!」

 ソニアはうれしそうに手をかざして見せびらかす。

「いや、それはダイヤモンドですの」とユコは突っ込む。

 その時、リリスは何を思ったのか、鞄から携帯型情報端末を取り出して何かを調べ始めた。

「……ネットで調べた同じようなものは、ブレスレットが金貨八枚で、指輪が……ええっ? 金貨六十枚? 嘘でしょ?」

 驚きながら、ソニアの指と携帯端末の画面の間で視線が行ったり来たりしている。

「左手の薬指にはめていますわね、その歳で、もう結婚しているのかしら」

「ちょっとよく見せて」

 リリスは、ソニアの左手を掴んで引き寄せて、指輪をじっくりと確認する。そして、携帯型情報端末の画面と並べて見て、まったく同じものだということが確認できた。

「……模造品よね? 本物だったら金貨六十枚近くするかもしれないのよ」

 ちなみに、ここエルドラード帝国では貨幣が主流で、一番価値が低いもので銅貨。次に銀貨。一番高価なものが金貨となっている。それぞれの関係は、銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚である。

 価値を例えるなら、ゲームのガチャ一回が銀貨三枚、といったところか……。

 わかりにくいかな。缶ジュース一本が銀貨一枚、くらいでどうだろう。

「あたしは緑でいっぱいになるの」

 リリスはいぶかしむ目つきでソニアを見ているが、ソニアは一向に気にしていない様子である。むしろラムリーザに貰ったものなので、自慢の品でもあったのだ。

「あなた、いったい何なの……?」

 

 

 その時、部室のドアをノックする音がした。

「先輩かな? どうぞー」

 ラムリーザは一人演奏していたのを中断して声をかけた。

「よう、来てやったぞ」

 そこに姿を現したのはリゲルだった。

「珍しいね、一緒に音楽やる気になったの?」

 ラムリーザは、ドラムの演奏を一旦中断して、リゲルのそばへ向かった。

「それもある。というのも、こいつと話していたらな」

 と言って、リゲルが外に向かって手招きする。それに応じて、一人の女の子が入ってきた。
              
軽音楽部の部室に、リゲルとロザリーンがやってくる場面
 その女の子は、明るい茶色の髪をくくってポニーテールにしていた。髪型は活動的に見えるが、その顔はメガネをかけていて知的なイメージだった。

「ロザリーン・ハーシェルです」

 ロザリーンと名乗った女の子は、リゲルと同じ天文部に所属していた。そして、リゲルがギターに興味を持っていたのと同じように、ロザリーンのほうも音楽に興味を持っていた。天文部で暇な時には、リゲルはよく一人で演奏していたが、それを聞いていたロザリーンも、彼に興味を示すようになったのだ。

「あ、君は確かパーティーの日に?」

「ラムリーザさんですね、覚えていますよ」

 やはりそうだった。

 学校が始まる前にオーバールック・ホテルで開催されたパーティーに、彼女も参加していて挨拶したことをラムリーザも覚えていた。確かこの地方の首長の娘だったはずだ。

 ラムリーザは二人をソファーの近くまで案内して、ロザリーンを自分が座っていた場所に座らせた。ラムリーザとリゲルは、それぞれ一人掛けのソファーに座り、これで六人で輪を作ることとなった。

「ロザリーンは何を演奏できるのかしら?」というリリスの問いに、

「主にピアノよ。他には趣味でオカリナを少々です」と答える。

 ピアノがあるのは、学校内では合唱部の部室と、軽音楽部が使っているこの部屋ぐらいである。そこで、リゲルの提案でどうせならラムリーザのいる軽音楽部に顔を出してみようという話になったのであった。

「へー、ピアノって聞くとなんだかお嬢様ってイメージね」

 リリスは冗談めかして言ったが、リゲルはニヤリと笑い、

「当然だ。ロザリーンはポッターズ・ブラフ地方の首長の娘だからな」と答えた。

「本当にお嬢様だった!」

「首長の娘……」

 手を叩いておどけてみせるリリスと、対照的に表情を落としてつぶやくソニア。

 ソニアの頭の中によからぬ心配事が広がっていく。フォレスター家にとって、この地方の首長の娘と政略結婚みたいな形になったほうがよいのかな、ラムリーザを取られちゃうんじゃないか……と。

「ソニア」

 その微妙な表情の変化を察したラムリーザは、声のトーンを落として呼びかけた。はっとラムリーザのほうを見るソニアに、そのままの口調で続けた。

「いい加減にしろよ。約束しただろ」

 突然普段と異なる厳しい口調に、リリスとユコは何事か、という表情をする。

 ソニアは一瞬、しまった、という表情をしたが、すぐに満面の笑みを浮かべ力強く言った。

「ロザリーンよろしくね! リーンって呼んだらいいのかな? リーンリーンリーン!」

「は、はい!」

 ロザリーンは、ソニアに突然大声でわけのわからないことをまくし立てられてびっくりしてしまった。それを見てラムリーザは、困ったやつだ……とため息をつく。

「でもいいですわね、ピアノにオカリナとなると、スコア作成の幅が広がりますわ」

「そういえばさっきも言ってたけど、ユコってスコア作成の才能があるんだ」

「そうよ、私も結構書いてもらって弾いたから」

 と、代わりにリリスが答える。

「いいねいいね、ラムがプレイしていたギャルゲーのエンディングテーマ、マジでいいからよろしくね! フーワフーワ降り積む夢のかけらー」

「あのなぁ」

 元気になったソニアは、終始こんな調子だった。

 

 というわけで、メンバーが二人増えたのである。しかし――

「……部長、やっぱり来ないのね」

 リリスが周囲を見回してつぶやき、ユコが苦笑する。

「指揮者不在ですわ。じゃあ今日は『言葉探し』だけでも」

 ラムリーザは、何も書かれていない手書きの五線譜を見ながら、

「探してるけど、まだ見つからないんだよね」と答えた。

 だから、メンバーが増えたからといって、この日に演奏することはなかった。

 結局のところ、軽音楽部ではなく雑談部なのであった。

 山風が窓を叩いて、白紙の角だけが小さく鳴った。